No.161 医療制度の綻び

近年医療制度・体制の崩壊が急激に進んでいて、憂慮しています。
一つ目は救急車の出動の増加です。消防本部の調べでは、この10年で出動件数が1,6倍にも増えて、中でも転院や軽い怪我、軽い病気でタクシー等で移動できるものが2倍も増え重症患者の救命率の低下に影響が出ているそうです。いずれ救急車利用の優先順位がつけられたり、有料化ということになるでしょう。
次に小児夜間救急ですが、知り合いの夜間当直をしている小児科医の話では、一晩に100人近くの人が受診してちょっとしたコンビニ医療という感じだそうです。昼間かかると待ち時間がかかるのと、夫が帰宅して車で送ってもらって受診するのと、夕方から夜に発熱したらすぐ受診するといったことで、夜間を選んでかかる人が多いのだそうです。
その結果夜間当番の小児科医は一晩中休む事なく、睡眠時間もろくに取れず翌日は通常の昼間の勤務を続けることになり、フラフラになるとのこと。こんなきつい勤務が続くのでは小児科志望の学生が減る一方だと嘆いています。
実際新しい研修医制度が終わり、一期生が色々な科をローテーションしてきて、はじめ小児科医希望だった学生が厳しい小児科診療の実態を見て半数の学生が他の科に変更したという調査結果が出ています。
どちらも国民が今ある制度を無分別に権利の乱用をして、せっかくの立派な制度をつぶしかねない状況を作り上げているように思えてなりません。
最後に、福島県の地方都市で一人医長として孤軍奮闘してきたある産婦人科医が、あるお産で前置胎盤・癒着胎盤という極めて稀なケースで出血性ショックで妊婦さんを亡くしてしまい、訴えられ、1年後に突然検察から逮捕・拘留されその後起訴されるということが最近起こりました。
同じ医者だから誤診をしてもかばうというのではなく、一生懸命きちんと治療しても時に力及ばず、もしくは思いもがけずに患者さんが亡くなることは数十年も医療をしていると何度か経験します。その都度どう対処すればよかったのか、治療に落ち度はなかったかといろいろ反省するものです。そして医療ミスとまでいかないにしても自分の力が足りず申し訳ないと感じるケースは確かにあります。
しかし今回の福島県の産婦人科医のケースは医療ミスと断罪するには酷だと思います。ましてや逮捕・拘留・起訴というのは医師の仕事への無理解というよりむしろ悪意を感じてしまいます。
その結果全国の多くの医師たちが検察への抗議とその医師への支援の署名・募金の運動を起こしています。
このようなことがまかり通れば、地域の第一線で頑張っている医師の診療意欲を削ぎ、萎縮医療・たらいまわし医療・事なかれ医療がはびこり、一人医長として頑張っている病院から医師が引き上げ始め地方での更なる過疎化が急速に拡がりかねないと危惧しています。