NO.57

平成8年10月1日発行

久しぶりに衆議院選挙が行われますが、気がかりなことが一つあります。
それは薬害エイズ事件に関連して、医師である阿部元帝京大学副学長と製薬会社であるミドリ十字の元社長3人が逮捕されましたが、まだ厚生省の官僚に対しての責任追及が行われていません。厚生省に検察庁の調査が入るという前代未聞の出来事があったのも、管厚生大臣が官僚の圧力に負けずに、徹底究明を指示したからできたことと思います。

しかし選挙後の次の厚生大臣にどのような人物がなり、厚生官僚への追求がどうなっていくのか、しっかり監視していく必要があると思います。

ところで、学生時代に見たことのある資料によれば、旧日本軍第731細菌戦部隊や満州医大で生物化学兵器を研究・実践していた医学者や軍医達はその軍事秘密をそっくりアメリカ軍に提供し、その代わりに戦犯を免れたそうです。

しかもそれだけでなく、彼らは戦後の混乱期にその特権を利用して血液事業の許可を手に入れ、ミドリ十字という会社を創立して一同に集まり、過去の研究実験の成果をそのまま生かして大企業へと成長させたのです。

一方彼らに特典を与えて保護してあげた見返りに、厚生省のトップ官僚達が天下るようになり、薬害エイズを生み出す土壌が出来上がったと思われます。(逮捕された3人のミドリ十字の元社長はいずれも厚生官僚です)

また、私事ですが研修医を終えて間もなくの頃Von Willebrand病という第8因子に欠陥があるため出血がなかなか止まらない患者さんと出会い、治療法に関して第8因子製剤を使うかどうか大学の血液班の先輩に相談したことがありました。その頃はまだエイズという病気も知られていませんでしたが、『アメリカからの輸入の血液製剤はその入手経路からしてどんなウィルスの病気がうつされるかわからないので、濃縮第8因子製剤はやめておこう。クリオ(新鮮凍結血漿)の方が安全で充分効果もあるだろう。』という結論になりました。そのクリオを使って、阿部先生の言うように点滴が詰まったことは一度もありませんでした。

しかし、10数年後、その患者さんの親からの久しぶりの便りに『娘は元気に高校生活を送っていますが、C型肝炎を発症してしまい治療をしています。』と書かれてあり大変ショックを受けたものです。
エイズでなかったのがせめてものなぐさめでした。

末端の医療の現場では、そのようにして治療の選択がなされていて、それでも失敗に心を痛めているというのに、今回の薬害エイズ事件では官僚・企業・大学のトップで関わってきた人達の無責任さには本当に怒りを覚えてます。
この世に正義が存在することを願って今後の動向を見守りたいと思います。