NO.69

平成9年11月1日発行

患者さんの自己負担額が増えて2ヶ月たちました。
例年に比べ当クリニックにかかる患者さんの数がかなり減っています。
恐らく軽い風邪ぐらいならじっと自然に治るのを待つか、市販薬を買ってしのぐ人が増えているのでしょう。

ドラッグストア全盛のアメリカ的なシステムに移行していく前兆のような気がします。
それに、薬をあれこれたくさん希望する人がなくなり、逆に減らして欲しいと言う人が特にお年寄りに増えてきました。それはそれでいいことだと思います。
高齢化社会に突入してこれからはすごいスピードで老人医療費は増えていく事でしょうし、何らかの対策が必要なのは確かです。
しかしその影で、経済的にあまり余裕のない人たちが医療機関にかかりにくくなった事に対する対策を忘れてはならないと思います。
また軽いと思って自己診断して放置してしまい、重くなってから医療機関にかかる人も増えてくることでしょう。

今の日本の医療保険制度は世界的に最も定評のある制度ですし、その結果が平均寿命世界一の高齢化社会へと加速させたというのは皮肉ですね。
日本の経済が長い不況から抜け出せず、将来にあまり希望がもてない今の状況での今回の自己負担・薬価負担新設はタイミングが悪かったし、不況に拍車をかけてしまったようです。
とは言っても、行政改革にもっと本気で取り組んで無駄をはぶけば、まだまだ日本の国家予算は相当豊かなはずなんですけどね。

そこのところをはっきり示さず、マスコミも朝日新聞に代表されるような「医療費膨張の一因は医者の医療費の不正請求」と言わんばかりの報道もあり、本当にがっかりさせられます。
大規模な、弁明の余地のないような本当の不正請求をしている医者がいるのには憤りを覚えますが、そのような人たちは周りからみてもおかしいとの噂や内部告発があるのにも拘らず放置されていたものばかりのようです。

通常私たち医師が社会保険や国民保険側から返還請求を受けるのは、ほとんどが保険証の記号の間違いによる「過剰請求」というものばかりで、あとは医療的というよりは政治的・政策的違いに基づく見解の違いに基づくものが少しあるというのが実態だと思います。
そんな事はごく普通のまじめな取材をしただけでも分かるのに、マスコミの報道レベルの低さがよく分かります。

今は国民と医師との間で利害が対立しているような誘導にのらず、きちんと「行政改革」の行方や社会保険・保障の「改正」の行方を監視していかなければいけない時期だと思います。