NO.88

平成11年8月1日発行

先日、NHKスペシャルで、血友病治療薬からエイズに感染した川田龍平君と元厚生省のその部門の責任者であった郡司課長との対談が放映された。

郡司氏は自分の主張が十分に番組で反映できなかったとしてNHKを訴えているという。
私は医者として知りえた今までの知識からみても、子を持つ親という立場からしても、郡司氏の川田君への回答す態度やその内容には憤りと失望と軽蔑の念を抱いた。

彼は川田君の質問に真っ正面から誠実に答えることなく意図的にはぐらかしているように思えてならなかったし、なによりも厚生省が国民(血友病患者)の健康よりも医療関連企業の経営状態を守ることに熱心であることにあらためて失望した。

厚生省同様自分自身も、医者をやっていて時々「患者さんにせっせと薬を売りさばく医療産業の末端のセールスマンになっているような」錯覚にとらわれ妙な気分になることがある。

ところでエイズウィルスが発見される数年前に第8因子の形態異常であるVonWillebrand病の患者さんを発見して、その子の治療に際して大学の血液班の先輩より「アメリカからの輸入血液製剤はスラム街に住む人達の売血で成り立っているので、どんな病原菌が入り込んでいるか分からず危険である。第8因子の濃縮製剤は1本で極めて多数の人間の血液から作られるので、さらに危険である。国内のクリオプレシビテート(新鮮凍結血漿)を使うと良い。」とアドバイスされたことを思い出す。

当時血友病治療の権威者である高名な医師達は当然そのようなことは知っていたはずである。
そして当然郡司氏もアメリカより最先端の情報を知っていながら迅速かつ有効な手立てを講じず、ミドリ十字をはじめとする国内製薬会社の損失を防ぐような行動を取り続けつぎつぎと新たなエイズ患者を生み出してしまった。
彼は法律で裁かれる事なく東大の教授にすらなっていく。

一方川田君はというと、エイズに体をむしばまれ、あと1〜2年の命かもしれない。
番組の最後にしらじらしく「もうこれが最後になるでしょう。」と答えたなんとも言いようのない表情が私にはズシンときた。

そして、今の日本に一番かけているものは「社会正義」であり、「やられ損」という言葉がぴったりあてはまる出来事が最近あまりにも多すぎると思う。
NHKスペシャルを見てみたい人はビデオ録画しましたのでお貸しします。お申し出ください。