NO.91

平成11年11月1日発行

もうすぐ開業満8年を迎えようとし、このげんき便りも100号に少しづつ近付いてきた。

そんなこともあって開業したての頃の初心を今一度思い起こしてみると、現在行っていて好評の「日曜診療」もそうだが、もう一つの事が思い出される。

思い出したきっかけは、つい数日前深夜のTV番組で、「都会では今や深夜の小児医療は無医村状態になりつつある」というテーマの特集を見たからだ。

その話は、4歳くらいの可愛い盛りの女の子が高熱と頭痛を訴えて何度も吐くようになる。心配した両親は近くの比較的大きな病院へ行くが、そこには小児科の医師はいなくて内科医に診てもらい、解熱剤と吐き気止めをもらっていったん帰宅した。

その後意識状態が急変してけいれん発作まで起こるようになる。
再び同じ病院へ連れて行くが当直の内科医は小児科のトレーニングを受けていないのでよく分からないため、高次の病院へ行くよう指示。

救急車を呼ぶが受入先の病院がなかなか見つからず、かなりの時間を要す。
結局数10km離れた病院にようやく入院できたが、翌日亡くなってしまったという。

検査で髄膜炎であったことが後で分かったが、小児科医が診ていればもっと早い時期に診察の段階で判断がついていたはずだというもので、諸外国の夜間救急の体制なども紹介していた。

確かに日本では小児科医の数は急速に減り続けており、少数になったしわよせで小児科医達は昼夜・平日休日の区別もなく忙しすぎるほど働いて、過労気味なのも事実である。

原因の大きな理由は、子供を扱う医療保険の値段が子供一人当たり大人の2分の1〜3分の1と安いため経営が苦しいので他の診療科へと医学生が流れていってしまうからで、それに子供の数が減少し続けている事が拍車をかけていると思われる。

そんなことを考えながら、開業当初、「会員1000世帯以上集め、年会費を1世帯およそ1万円徴収できれば『小児の夜間救急をいつでも診ます!』というサービスができる」のにと夢想していたことを思い出した。

所属する大学の先輩後輩たちに当直料を払って毎日交代で泊まってもらい(もちろん私もそのローテーションに入り経費を節約して)夜間の小児医療不在の穴を少しでも埋めたいと思っていた。
しかし実現できなかった。なぜか?

世の中の人は「救急車はタダであり、年会費1万円払ってでも夜間救急時診てくれる医療機関を確保するよりも、消防隊の人がタダで探してどこかよい所へ連れて行ってくれる」のが当然と考えているようだ。

もっともっと切迫した状況にならなければ、私の考えたようなアイデアを実行に移すのはまだ無理のように思える。
もう少し待つことにしようと思う。