げんき便り 2015年5月号「詩吟について」

最近「詩吟」なるものを習い始めました。個人指導を受けてはや3ヵ月になります。今後の仕事の忙しさとの兼ね合いによっては、いつまで続くか自信はありませんが…

私が10歳の頃、40歳になる父が突然会社の詩吟クラブに入り、家中に響き渡るような大声で詩吟を吟じるようになったのを、幼いながらも覚えていました。

その頃は詩吟の音調、メロディは覚えていても、その言葉の意味は漢語ばかりで全く分かりませんでした。

50余年経ち、今改めて勉強してみてその内容の深さにびっくりしています。

特に父が好んで吟じていた「金州城下の作」は乃木希典が日露戦争時に詠ったもので「山川草木転(うた)た荒涼、十里風醒(なまぐさ)し、新戦場。征馬(せいば)前(すす)まず、人語らず、金州城外、斜陽に立つ。」というものです。

その意味は「あたり一面戦(いくさ)の後で荒れ放題、自然は荒涼としている。ついさっきまでの戦いで、周囲10里ほどでは血生臭い風が漂っている。軍馬を煽っても疲れ果てて前へ進もうともしない。兵士たちも疲れ果て茫然と誰一人として言葉を発する者もなく押し黙ったままである。金州城外のこの光景を前にして私は夕陽にただ立ち尽くすのみである。」

この詩を吟じると、日本から遥か離れたアジアの果てまで数多くの部下の兵士たちを率いて戦争に派遣された当時の父の虚しい気持ちが偲ばれて涙が出ます。

戦争をはじめ、人と人との争い事には「勝ちも負けもなく虚しいな」とつくづく思います。できれば父の存命中にこの詩を心込めて一緒に吟じてあげて、父の心を慰めてあげたかったなと今思います。

院長