高次脳機能障害とは

脳は血液の流れの速度、呼吸の調整、体温調節、寝たり起きたりのリズム、空腹を感じること、運動調節など様々な生命維持にかかわる機能の司令塔として重要な役割をもっています。これは人間の体を生かしている基本的な脳の機能といえます。
しかし、より良く生きていくために、見たり聞いたりしたことを整理して行動に結びつけるための機能が脳には備わっています。これが「高次脳機能」です。
高次脳機能とは、物事に注意を向け、以前の記憶と照らし合わせて認識したり、新たに記憶・学習していく働きです。またこれらの認識に基づき、判断を下し、どう行動したらよいかを計画したりします。
人間にはこの高次脳機能を発達させ、自分の経験だけでなく、他人の経験も自分のものとできるように、コミュニケーションの機能すなわち言葉を発明してきたのです。この高度な脳の機能が傷害されて起こる病気が「高次脳機能障害」です。
原因の主なものは交通事故や何らかの原因で頭部をかなり強く打つことによって起こります。他には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などです。
症状は人によって現れ方は異なりますが、次のような症状が一般的です。
●記憶の障害
新しいことを覚えられない、約束を忘れる、日時を間違える、どこにいるのか分からなくなる、同じ質問や話を何回もする。
●注意の障害
集中力が長続きしない、同時に二つのことをしようとすると混乱する、不注意が目立ち指示を取り間違えたり、ミスが多い。
●遂行機能障害
仕事への取り掛かりや、段取りが悪く、こだわりが強くなるため、周りの人とトラブルを起こしやすくなる。
●失語
聞く、話す、読む、書くなどの言葉の機能が障害を受ける。
●失行
手足の運動に問題がなくても、服を着る、箸やはさみを使うなど普段できていたことができなくなる。
●失認
視力に問題がないのに、色、物の形、物の用途や名前が分からない。絵を見て全体のまとまりが分からない。
●地誌的障害
よく知っている場所で道が分からなくなって迷ったり、自宅の見取り図や、近所の地図が書けない。
以上のような障害を家族にも理解されず、職場でも戸惑いやトラブルが頻発し、終いには職を失うことになります。
高次脳機能障害はまだ新しい疾病概念なので、介護保険・福祉制度面では身体障害、知的障害、精神障害とも認められず、症状が重く目立つ場合に限って例外的に一部認められているのが実情で、今後の行政の理解ある対応が期待されます。